夜中に洗濯機を回す
仕事が終わって家に帰るのがいつも23時すぎ。
帰ったらまずシャワーを浴びる。服を脱いで洗濯機に入れる時、洗濯物が溜まっていることに気づく。
もしやと思ってクローゼットを確認すると、明日着る服がない。私服で働く私にとっては致命的だ。
そんなことがたまに起きる私の生活。
仕方なく、今日も夜中に洗濯機を回す。
隣人に洗濯機の音が聞こえているだろうか。
洗濯機や掃除機の音で騒音トラブルになるとよく聞く。
深夜に洗濯機なんてもってのほかだろう。寝ているところ起こしてしまっていたら申し訳ない。いつもごめんと思ってる。
うちのアパートは1つのフロアに2部屋しかないので、隣人は1人だけ。
隣人の咳やくしゃみと、浴室の排水口に水が流れる音は頻繁に聞こえる。
防音がしっかりしているわけでもない、東京の外れにある普通のアパート。きっと洗濯機の音は隣に聞こえているのだろう。
住んで1年になるが、今のところ苦情がきたり、管理会社から注意されたりしたことはない。
耐えてくれているのか、気にしていないのか。どちらにせよ、ありがとう。ごめんね。
隣人の生活音で思い出したが、大学の頃に「おと・な・り」という映画を観たことがある。
アパートの隣に住む男女が部屋の壁越しにお互いの生活音を聞いている話。余計なBGMなどがなく、静かにお互いの生活音が流れる。
相手の生活音を聞くという一見気持ち悪い描写を、不快感なく静かに丁寧に描いている作品だった。(あと主演の岡田准一さんがカッコいい)
この作品、アパートとして使われていたのが鎌倉にあるホテルで、私は1度そこに泊まったことがある。
大学3年の時だったと思う。鎌倉に友達と3人で遊びに行った。日帰りの予定だったが、私がこのホテルのことを思い出して泊まってみたいとわがままを言って、素泊まりすることになったのだ。
映画のロケ地に泊まってみたいなんてわがまま、よく聞き入れてくれたと思う。ゆっくり酒が飲みたかっただけかもしれないが。
ロケに使われたのはホテルの外観だけで、映画に出てきた部屋は別の場所らしく、内装はアパートというより赤が基調のおしゃれなホテルだった気がする。
泊まったものの、ただ3人で酒盛りをして、眠くなったらそれぞれ寝る。それだけだった。
みんな寝静まった夜はとにかく静かで、生活音どころか車の音も聞こえなかった。
静寂の中、敷き布団で寝る友達2人を横目に、なぜか布団を用意されなかった私は部屋のソファーで寝た。
そんな思い出。
この「おと・な・り」という映画、懐かしくなって先ほど某映画のアプリで調べてみた。
コメントで賛否あった中に「話が現実的じゃない」というネガティブな意見があった。映画に対するコメントでたまに見かけるが、フィクションの世界に現実味を求める人が一定数いるのはなんなんだろうか。
現実なんて自分の生活でお腹いっぱい。
フィクションのない私のリアルな生活が映画になってても5分と観ていられないだろう。2,000円も払って映画館で観る人なんていない。
現実的じゃない映画でいい。
フィクションだけでも夢を見させておくれ。
映画の中でくらい、現実にない展開があってほしい。
私はそう思う。
洗濯機の表示が残り4分になった。
そろそろ洗濯が終わる。
朝までに乾くかわからないから、今日は乾燥機を使おう。乾燥機付き洗濯機を買っていて本当に良かった。
また私の生活音が隣に聞こえてしまうかな。
本当にごめんね、隣人。
いつかちゃんと謝るから。
罪悪感はあるけれど、
今日は夜中に乾燥機も回す。